ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

いのちを窒息させられていた 山本菜々子画集 2006-2019

(編集 喜久井ヤシン

今回は、アーティストの山本菜々子さんの作品をご紹介。山本菜々子さんは、不登校・ひきこもりの経験を経て、現在はデザインの仕事をしています。「自分」とは何か。「表現」とは何か。さまざまな痛みが描かれた作品には、社会の中での生きづらさが宿っています。作家自身の言葉とともに、絵による自伝をお届けします。

 

  ➡前回 私の魂は黒かった 山本菜々子画集2002-2005

www.hikipos.info

 

2006-2009年 死にたいほどの自己嫌悪

私は、度々自分の生きている価値を問う思いに駆られました。表現をしたい欲求が生まれてくるたび、自己嫌悪が襲ってきます。

そのままの自分ではいけないという思いが強く、強烈に孤独で、絶対的無条件に自分の存在を肯定して受け止めてくれる何かを、死に物狂いで求めていました。

 

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「泥人形あるいは赤と青の聖人」728㎜×1030㎜

 

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「このままじゃいやだ」285㎜×297㎜



しかし、いざ人に好意を向けられたり、絵を好きだと言ってもらっても受け取ることができず、私の孤独感は埋まることがありませんでした。

 

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「冷えた自画像」297㎜×210㎜

 

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「一本道」420㎜×297㎜

 

表現は、私にとって自分の存在を受け止めてくれ、孤独から引き離してくれ得るものでした。

しかし、私は私の存在を表現で社会にわからせる必要がありました。ありのままの自分の表現をしたいのに、それでは受け入れられないだろうという思いがありました。表現をしたいと思うたび、自分の心は引き裂かれていました。

 

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「神保町」297㎜×420㎜

 

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「ふたり」420㎜×297㎜

2010年「学校教育を学ばない」という学び

2009年頃から、シューレ大学(※1)の美術講座で日本画を学び始めます。これまで自分が絵を描く上で重要だと思っていたことは、全て学校教育で教わる西洋美術の視点だという事に気が付きました。

 

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「水面」420㎜×297㎜ 

それは表現とはこうあるべき、という価値観にも直結していました。

 

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「無題」540㎜×380㎜

 

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「飾り羽根」380㎜×540㎜

 

私の表現の価値基準は学校教育に裏打ちされたものである。すると、私の思っていた表現とは一体なんなのだろう。そんな疑問が浮かび始めました。

2011年-現在 表現は生きるうえで必要なんだ

ここでずいぶん時代が飛びますが、一気に現代の自分まで走ります。

シューレ大学の学びの中で、イギリスのサマーヒル・スクール(※2)に通う人たちが大事にしていることに、表現活動があるという事を知りました。

私はこのとき、同じように学校へ行かないで表現をしてきた自分と、このイギリスの人たちの表現が根本から違うと強く感じました。

私は不登校をしてからずっと絵を描き続けてきました。いつかすごい絵を描いて、有名になって世間に自分の存在を認めさせたかったのです。

けれど、それを求めることは世間の認める「表現者」になる必要がありました。

私は、表現をしたいのではなく、「社会の認める表現者」になろうとしていたのだと気が付きました。

 

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「菊」318㎜×465㎜

 

イギリスの人たちの表現は、それに比べてとても豊かで、生きる喜びに満ちて感じました。

私は生きる喜びのためではなく、社会の価値観に無理やり合わせて表現をしていた。それを表現だと思うなど、生まれたての赤ちゃんの口を塞いで窒息させるようなことだと思いました。

 

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「生まれ変わり」282㎜×297㎜

 

私は今まで表現をしたいと思うたび、自分で自分のいのちの息を塞ぎ続けてきたのでした。

私の表現したいという欲求は、私が生きているということそのものなんだと思いました。

それから私は、自分が生きている事をようやく許すことが出来たのだと思います。

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「林檎の花」273㎜×242㎜

 

おわりに

私の好きな画家の言葉に、『本当に良い芸術を前にすると、人は肩書を失う』という言葉があります。うろ覚えなので違っていたら恥ずかしいですが、私はこの言葉をずっと覚えています。

 

生きることが牢獄だった自分にとって、好きな表現を見ている間は自分が誰なのか忘れ、生きている事がうれしい思いにさせてくれるものでした。私もそのような表現を出来たらいいのにと思います。

 

また新しく絵を描いたら、その時は皆さんにも見てほしいなと思います。

 

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「筆を持ってみた自画像」208㎜×238㎜





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※1 シューレ大学……東京都新宿区にある、オルタナティブな学びの場。現在、18歳以上の20代・30代の若者約30人が、自身の知りたいこと、表現したいことを探究している。

『ひきポス』での紹介記事⇒ 大人が通えるフリースクール?〈シューレ大学〉のご案内 - ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

 

※2 サマーヒル・スクール…… 1923年に南イングランドで創立された。「世界で一番自由な学校」として知られる。創立者のニールは、『子どもに学校を合わすのではなく、学校を子どもに合わせる』という言葉を残している。

 

 山本菜々子

1983年生まれ。小2から不登校。13歳まで家で育つ。セツ・モードセミナー中退。シューレ大学で表現活動を中心に、生き方を創ることを試行錯誤する。在学中にシューレ大学の仲間と(株)創造集団440Hzを設立し、デザインを担当している。また2015年にはシューレ大学のOGと「劇団ふきだし」を立ち上げ、公演活動も行う。

 

 

 ご覧いただきありがとうございました。