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【1000文字小説】〈透明人間になるための学校〉で、ぼくは劣等生だった

 ひきこもり経験者による、約1000文字のショートショートをお届けします。〈生きづらさ〉から生まれた小さな世界をお楽しみください。

 

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山本朝子版画集『人と風景と、出会う』より



 

透明人間になるための学校で、ぼくは劣等生だった。

学校では毎日、うまく透明になれる方法を習う。

人から見えなくなるための歩き方や話し方。

それに〈透明人間〉の歴史と伝統も勉強させられる。

クラスメイトたちが、自然にスッと姿を薄くできるのがうらやましい。

ぼくは四六時中神経を使っていないと、すぐに「濃く」なってしまうから。

 

透明人間の町では、大勢の大人たちが歩いていても、誰一人いないかのようだった。

見えない従業員が見えない仕事をしていて、お店ではいつのまにか商品が入れ替わり、いつのまにかゴミも消えている。

目を凝らさなければ、変化していることに気づかない。

ぼくのお母さんも透きとおるのがうまくて、人前に出て話していても、ほとんど見えないくらいだ。

子どものころから一生懸命学校に行って、骨の髄まで〈透明〉を身につけてきたからだって。

 

 

たまに昔の映像が流れているのを見ると、ぼくはびっくりしてしまう。

道を歩いている人が、みんなすごく「濃い」からだ。

ぼくも大昔に生まれていれば、透明でないことを責められなかったのかもしれない。

りんかく線や存在感が濃すぎることを、ぼくは何回も叱られていた。

 

 

お母さんは「このままだと透明人間失格だよ」と言う。

ぼくがあまりにも透けなかったせいで、病院に行くことになった。

診察室では筆記とか面談とか、あれこれの検査を受けて半日を過ごさないといけなかった。

それでわかったのは、ぼくが透明人間の素質に欠けていたことだ。

ぼくを診たお医者さんは、「濃厚障害ですね」と言った。

それがどんなものなのか、ぼくでもだいたいの想像はつく。

お母さんはショックを受けていたみたいだけど、そんなときでも透きとおっていた。

 

病院に行った日の夕方。

ぼくは一人の帰り道を、めちゃくちゃに濃い姿で歩いてやった。

濃い姿で外を出歩くなんて、学校では即注意される「悪い子」のやることだ。

でも、かまうものか。

夕暮れの真っ赤な太陽だって、炎々と燃えるマグマじゃないか。

道端の草だって、硬い地面の土を破れるように、図太い根っこを生やしている。

通り過ぎる大人たちは透明な姿で、透明なまなざしを向けていた。

ぼくはそんなことにはかまわず、粘度みたいな瞳から、油絵具のような涙を流して、道のど真ん中を歩いてやった。

 

 

 

 

    END

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 絵 山本 朝子 (やまもと あさこ)
1986年生まれ。小学校に2ヶ月ほど通った末に不登校になり、家を中心に育つ。絵の学校やアルバイトなど経て、TDU・てきせん大学に入学。絵画、演劇、音楽などの表現活動を大事にしつつ、歴史を学ぶことや、不登校体験からくる生き難さの発見や捉え直しをしたり、人間が豊かでいるための価値観を模索している。

 

文 喜久井ヤシンきくい やしん)
1987年生まれ。詩人。不登校とひきこもりと精神疾患の経験者で、毒親育ちのゲイ。Twitter https://twitter.com/ShinyaKikui

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは無関係です。

 

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