NHKの中高年ひきこもり報道でやらせ疑惑が浮上したという。
3月29日、内閣府で中高年のひきこもりが61万3000人にのぼると公表された。その日の夜、NHKのニュースですぐに報道され、ある中高年のひきこもり当事者が紹介された。
ところが、このあと驚くべき展開が待っていた。
なんとこのひきこもりはフェイクであり、やらせではないかという疑惑がまとめサイトや5ちゃんねるを中心に広がったのだ。それがさらにTwitterなどのSNSにも伝播していった。
結論からいうと、やらせではない。僕、この人知っています。ひきこもっています。あっ、でも、もしかしたら、僕もだまされているとか(笑)。んなこたぁーない。
本人が、一つひとつ丁寧に説明しているので詳しくは以下のリンクからどうぞ。彼のように頭もよく冷静な人間だからこのように早く対応ができていたが、僕であれば寝込んでいたと思う。炎上というのは本当におそろしい。
それより気になるのは、多くの人が、ひきこもりに対してこうあるべきだというイメージをもっていることだった。視聴者の一部が、この方に疑問を抱いた部分を紹介したい。
・(ひきこもりなのに)こんなにはきはき喋れるのはおかしい
・(ひきこもりなのに)ピンクのシャツを着ているのはおかしい
・(ひきこもりなのに)色黒なのはおかしい
・(ひきこもりなのに)MacのノートPCを持っているのはおかしい
・(ひきこもりなのに)腕時計をしているのはおかしい
・(ひきこもりなのに)カレンダーを貼っているのはおかしい
・(ひきこもりなのに)顔つきが仕事をやってきた人っぽいのはおかしい
・(ひきこもりなのに)髪が整えられているのはおかしい
・(ひきこもりなのに)ヒゲを剃っているのはおかしい
・(ひきこもりなのに)部屋が小奇麗なのはおかしい
・(ひきこもりなのに)部屋にフィギュア、ラノベがないのはおかしい
・(ひきこもりなのに)動作がスムーズなのはおかしい
・(ひきこもりなのに)どう見てもひきこもりの目つきじゃないのはおかしい
まるでアイドルなみにひきこもりとしてのイメージを求められている。これらの基準をクリアしてこそ、世間にひきこもりとして認められるのだろう。ひきこもりの道は険しく、そして厳しいのだ。ひょっとしたら、AKBのオーディションに合格するより難しいのかもしれない。
ひきこもり像をくつがえすのは困難
ひきこもりとはかくあるべきだと思う人が多いのは興味深い。ひきこもりを観測するのは難しいはずなのに、多くの人の中に確たるイメージがあり、今回の放送はリアルだったとしても、リアリティがなかったということなのだろう。
夢枕獏の小説「陰陽師」にこのようなセリフがあったのをおぼえている。「この世で一番短い呪(しゅ)は名だ」と。名前は人やモノを縛る。概念さえも。ひきこもりとて例外ではない。
この観点から考えると、今回のやらせ騒動も合点がいくと思う。ひきこもりという言葉そのものがイメージを強化していくのだ。この縛りからはだれも抜け出せない。ひきこもりという言葉があるかぎり。
ひきこもり問題を報道するマスコミのジレンマ
テレビに出ていた人間がひきこもり当事者だとしても、もっとひどい状態のひきこもりがいるはずだ、そういうひきこもりを知っているという人もいるかもしれない。では、その当事者たちはテレビに出られるだろうか。おそらく出られないだろう。
であれば、この中高年ひきこもりの問題を報道しなくていいのか。報道しないのはマスコミの怠慢だと僕は考えるし、NHKもおそらくそう考えているのでひどい状態から抜け出しつつある中高年ひきこもりの当事者を取材して報道したのだろう。
しかし、ひきこもりは外部から観測しづらい性質があるため、メディアにひきこもり当事者が顔や名前をさらした瞬間、多くの人が違和感をおぼえてしまう。ひきこもりなのにテレビに出るはずがないと。
そして、メディア自身がこのひきこもり像を強化していった歴史もある。ひきこもりとは、カーテンの閉めきった暗い部屋で体育座りしているような……。
いまは、このステレオタイプなひきこもり像以外の実態を報道しようとするメディアも出てきた。ただし、それは必ずしも視聴者や読者のもつひきこもりのイメージと一致しないので今回のようなことが起きてしまう。
しかし、それを怖がって報道しなければ報道機関としての矜恃が疑われるし、報道してもやらせが疑われる。どちらを選んでもいばらの道だ。ひきこもりは非常にあつかいづらく、厄介な問題であると思う。
執筆 さとう学
小学生のときに不登校。中学で特殊学級に通うものの普通学級への編入をうながされて再び不登校。定時制高校に進学するが15~16才で大検(現在の高認)を取得したため、中退してひきこもる。
大学を一年で中退してしばらくひきこもる。障害者枠で働き始めるがパワハラをうけてひきこもる。2017年にひきこもり支援を訴えて市議選に立候補。落選して再びひきこもる。
最近、ひきこもり新メディア「こもりたガール」をつくり、そこの最高執行責任者(COO)になることにした。今回のやらせ騒動でCOOというパワーワードに気づいたのだ。ちなみにまったくなにもやっていないし、報酬0円だし、メンバーは男二人でガールはいない。
noteで「ひきこもり男子の日常」を毎日更新中。絶対見ちゃダメ。恥ずかしいから。