ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

ひきこもり当事者たちが作った幻の雑誌『クラヴェリナ』(2002年-2004年)総目録

今回は、ひきこもり当事者が制作していた雑誌『クラヴェリナ』を紹介します。

 

f:id:kikui_y:20201125162602j:plain

 

『クラヴェリナ』は、2002年から2004年までに、7冊が刊行された同人誌です。

 

雑誌創刊のきっかけは、ひきこもり当事者たちの居場所「スペース1」でした。

設立したのはOご夫妻で、息子が当事者であったことから、ひきこもりの活動にたずさわるようになりました。

Oご夫妻は、1999年に始まった「ひきこもりについて考える会」の発起人であり、親同士の交流や、識者の講演会などもおこなっていました。

(『クラヴェリナ』の第6号では、「考える会」でおこなわれた、哲学者の森岡正博さんの講演録が収録されています。)

 

Oご夫妻が2001年に始めた居場所が「スペース1」、通称「スペワン」でした。

当時はひきこもりに対する行政支援や居場所運営などがほとんどなく、手さぐり状態での発足だったといいます。

 

居場所は週に2回ほど開放され、ひきこもり当事者が自由に参加し、英会話やパソコン勉強会、映画の制作などもおこなわれていました。

 

参加者の中には、現在「ひきこもりUX会議」や「ひきこもり女子会」などの活動をおこなっている林恭子さんもいました。

林さんによれば、当時の「スペワン」は「参加者みんなの仲が良い、オアシスのような場所だった」といいます。

 

あるとき、「スペワン」に集まった参加者から「雑誌を作りたい」という声が上がり、『クラヴェリナ』の制作が始まりました。

内容は身辺雑記から旅行記、オススメの映画紹介、4コマ漫画など、多岐にわたっています。

参加者が自由に表現するための冊子であり、多いときには10~20人がかかわっていました。
「ひきこもり」がコンセプトになっているわけではありませんが、特集は「甘えとは何か」、「親と子」、「あなたの『きっかけ』、なんですか」など、当事者的な悩みが中心となっています。

 

   『クラヴェリナ』紙面の様子

f:id:kikui_y:20201125162049j:plain

現代と変わらない対人恐怖の悩み

 

f:id:kikui_y:20201125161734j:plain

ドキュメンタリー映画『home』を当事者がレビュー

 

f:id:kikui_y:20201125161428j:plain

今も昔も猫は人気。ここでは漫画の主役となっている。



f:id:kikui_y:20201125161358j:plain

時代を感じさせる「インターネット回線」の案内

 

タイトルの「クラヴェリナ」は海鞘(ホヤ)を意味しており、作家・花田清輝の「復興期の精神」の一文から取られています。

プランクトンの一種であるホヤは、水をかえずに放っておくと、生物として必要な器官がなくなっていき、見た目は「死んでしまったように見える」。しかし水をかえると、元の複雑な構造が戻っていき、健康な状態にもどります。
花田清輝は、『注目すべき点は、死が——小さな、白い、不透明な球状をした死が、自らのうちに、生を展開するに足る組織的な力を、黙々とひめていたということだ。』とつづっています。
このような「ホヤ」のイメージが、「ひきこもり」と重ねられたのでしょう。

なお「編集長のあとがき」は「比べるな」という題で、「クラヴェリナ」のタイトルがもじられています。

 

冊子は「ひきこもりについて考える会」参加者などに一部200円で販売され、定期購読も可能でした。
参加者自身の手によって、町内会のお祭りで販売されたこともあります。

 

2004年、「スペース1」の閉鎖とともに、『クラヴェリナ』も惜しまれつつ廃刊となりました。

 

基本情報と目録を以下に掲載します。

 

 書誌情報

名称 クラヴェリナ(Clavelina)
制作 スペース1
発行社 株式会社ポプルス
発行部数 各号200部以上(推定)
ページ数 30~50ページ
定価 一冊200~300円
版型 B5

 

 発行時期

第1号 2002年  6月(創刊)
第2号 2002年  9月
第3号 2002年 11月 
第4号 2003年  2月 
第5号 2003年  8月 
第6号 2004年  3月 
第7号 2004年  8月(終刊)

 

  目録

※本名と思われる筆名は「(当事者)」と表記します。

 

第1号(創刊号)

f:id:kikui_y:20200918093642j:plain

〔特集〕甘えとは何か
特集によせて(ふみこ)
甘えと人間関係(すー)
「甘え」を巡る座談会
〔連載〕
歳三のベトナムふらり旅(当事者)
男の生き様論~俺は発展途上編~(当事者)
〔読み切り〕
お金をもっと回しましょう。(当事者)
MSMメッセンジャーの薦め(久遠)
オススメVIDEO&DVD「シックス・センス」(Noriko)
冷やし中華始めました。~昨今の携帯事情の巻~
まちかど探訪 本郷界隈
「比べるな」編集長のひとりごと
スペース1からのお知らせ

 

第2号

f:id:kikui_y:20200918093713j:plain

〔特集〕親と子
父への手紙(H.Atsu)
親への手紙(ノエル)
リア王について(すー)
親と子について考える映画
〔連載〕
ベトナムふらり旅(当事者)
男の生き様論(当事者)
〔読み切り〕
オススメVIDEO&DVD(Noriko)
ももの茶飲み話(もも)
「比べるな」編集長のひとりごと

 

第3号

f:id:kikui_y:20200918093739j:plain

〔特集〕これまで、そして今
ももさんロングインタビュー
遥かなる旅……自室入り浸り生活十年目の今日に……(古本屋巡り@積読系)
勇気をもって床屋に行こう(当事者)
〔連載〕
歳三のベトナムふらり旅(当事者)
男の生き様論~東京ひとりぼっち編~(当事者)
〔読み切り〕
おくすり崙(koka)
ひきこもり支援ガイド(当事者)
オススメVIEO&DVD「シッピング・ニュース」(Noiko)
サウンドノベルの薦め(久遠)
自助サークル紹介「フレオリ」
「比べるな」-編集者のひとりごと

 

 第4号

f:id:kikui_y:20200918093809j:plain
〔特集〕僕らの日常
“もやっとしたもの”との十余年(当事者)
ハローワーク日記(ノエル)
おいしいコーヒーの入れ方(Yuu k.Rinoha)
夢無残(アヤナミ 霊)
ひきこもりには生活保護は無理(福祉○○一代)
〔連載〕
グランジ・サヴァイヴァル(当事者)
民主主義について(す一)
男の生き様論(当事者)
歳三のベトナムふらり旅(当事者)
〔読み切り〕
映画『home』について
三つの世代が語る三様の感想(一葉/koka/アッシュ)
自助サークル紹介「あるがまま」(当事者)
ももの茶飲み話(もも)
比べるな-編集者のひとりごと

 

第5号 

f:id:kikui_y:20200918093859j:plain

〔特集〕 あなたの「きっかけ」、なんですか
自分の価値が、他人の評価で決まる人(当事者)
充実しない大学生活から(久遠)
自分が思う「閉じこもり」状態からちょっと光がさしたきっかけ(かっぱ)
インタビュー Yuu.k.rinohaの場合(聞き手・ふみこ)
〔連載〕
香港的小旅行記(当事者)
男の生きざま論(当事者)
民主主義について(す一)
ひきこもり読書論(当事者)
〔読み切り〕
オススメVDEO&DVD(Noriko)
模「犯」回答集(七時の羊)

〔特別企画) 
淡路プラッツが模索する援助のカタチ そして、当事者と援助者
対談 (当事者)・(当事者)

 

第6号

f:id:kikui_y:20200918094114j:plain

〔特集〕無痛文明論 
無痛文明論とはなにか(森岡正博)
〔連載) 
民主主義について(スー)
ニシエヒガンエ(当事者)
ひきこもり読書論「ノンセンス・ソングス」(当事者)
男の生き様論 最終回(当事者)
〔読み切り〕
ヒッキー用語小辞典(七時のひつじ)
僕なりの対人恐怖の乗り越え方(Xtal)
ヒッキー用語小辞典

 

 備考

※『クラヴェリナ』第6号には「スペース1のこれまで」として、以下の沿革が記載されています。

  スペース1のこれまで

2001.6 小田急線玉川学園前駅近くのアパートで産声を上げる
2001.7 英語会とパソコン勉強会はじまる
2002.6 クラヴェリナ創刊号発行
2002.9 クラヴェリナ第2号発行
2002.11 クラヴェリナ第3号発行
2003.2 クラヴェリナ第4号発行
2003.7 玉川学園町内会のお祭りに参加。古本屋を出店
2003.8 ビーズ教室、はじまる
2003.8 クラヴェリナ第5号発行
2003.9 土曜おしゃべり会、はじまる
2003.9 「ひきこもりについて考える会」閉会

  以上

※「ひきこもりについて考える会」は、「新ひきこもりについて考える会」として現在も継続しています。

 

第7号 (最終号)

f:id:kikui_y:20200918094034j:plain

〔特集〕ぼくらの80年代
80年代、10代の私と洋楽(ミラー)
80年代教育の間違い(副長)
80年代のゲーム(Kiyo)
座談会 つくば万博/アニメ/ドリフ
〔連載〕
ニシエヒガシエ(当事者)
民主主義について(す一)
〔読み切り〕
ももの茶飲み話(もも)
鎌倉散策(ふみこ)
ひつじまんが大王(七時のひつじ)
一粒の涙(Phantom)
バックナンバーの紹介
比べるな・編集後記

 

 

 

 

 

 

——————————————————
協力 林恭子さん 全国不登校新聞社

 

文・写真 喜久井ヤシン(きくい やしん)
1987年生まれ。10代半ばから20代半ばまで、断続的な「ひきこもり」を経験している。
ツイッター 喜久井ヤシン (@ShinyaKikui) | Twitter