今回は、ひきこもり経験者による警句(けいく)集をお届けします。短い言葉で刺激的なイメージを起こす手法は、「箴言(しんげん)」や「アフォリズム」とも言われます。独特な一文をお楽しみください。
自室……自己と社会の最小公倍数。
・
マイノリティは語る。いつか語らなくてもよいという平凡に至るために。
・
意図せず集まった三本の矢は、三者が各様に意図しても折れない。
・
誰からも聞かれることのない、サイレント・マイノリティの唱和。
・
「当事者が声を上げ始めた」という変化ではなく、社会が聞く耳を持つようになったところに変化がある。自分たちの耳が変わったときに、人々は相手の声が変わったという。
・
常識……最大多数の最大病理。
・
協調性をもちながら独創性をもち、平均的でありながら個性的であり、ローカルでありながらグローバルであること。——これらを毎日同時に達成することが凡人の最低条件である。
・
外国には「二つのイスのあいだに座る」ということわざがある。私はすべてのイスに座ろうとした。親の期待のイスにも、学生として最低限のイスにも、世間から望まれるイスにも。結果、私は地べたで汚れている。
・
現代の民話では、おばあさんが山へ芝刈りに行き、おじいさんが川へ洗濯に行く。そして桃太郎は鬼と協議せねばならない。
・
世間は人々に、「命を粗末にしてはならない」と説く。しかしその世間が人々の命を粗末にしている。
・
就職活動においては、自開症に罹(かか)ることが推奨されている。
・
感嘆符を擬人化したような人。
・
失敗より多くを失うのだとしても、経済的な成功が求められている。
・
自己啓発本がいうように、すべての人々が本当に「ありのまま」で「自分らしく」いたなら、国家は幸福に破綻する。
・
都市に適応した人々は、あらゆる街角を室内にする才能がある。
・
私は僻地(へきち)にした東京を暮らしている。
・
都市は休息の手段をも急かす。
・
ロボット生産工場の人間たちは、機械の親となるにふさわしい愚直さを持っている。
・
人生は理不尽である。その主因が自己であっても。
・
ある短いドラマ――「僕は彼が好き」。
・
同性愛者は慢性的な失恋状態におちいっている。個人的な恋が成就しても、社会的な恋に挫折する。
・
人類に孤独という言葉がなかったころの孤独。
・
藝術家の孤独に相殺される、鑑賞者の孤独。
・
ある創造——狂気の代行。
・
飼いならされていない、獰猛な思考。
・
私の身体は私の野党だ。
・
私は自分にも共感できない。
・
自身に追いつくことのできない自己が走る、最小空間でのアキレスと亀。
・
私は健康にも病気にも向いていない。
・
年中自分自身でしかあれないのは、人類史上の異常事態である。
・
生そのものの慢性痛によって、生命は痛みながら老いていく。
・
どんな言葉も名乗り出ない感情。
・
二度と読まれない文字の数。
・
暗がりは生きることを急かさない。
・
マジョリティは言葉の大通りを歩行する。マイノリティは同じ距離でパルクールをさせられる。
・
オルタナティブな生き方とは、大通りに対する細道を行くことではない。Y字路の真ん中を堂々と歩むことだ。
・
最短距離だとしても、それが隘路(あいろ)なら時間がかかる。「遠回り」であることは、時間的な最長距離であることを意味しない。
・
勉強が既知に向かう歩行であるのに対し、学びは未知に向かう航海である。どこにたどり着くかはわからないが、向かう先はいかなる路上よりも広い。
———————————————
文 キクイ ヤシン
1987年生まれ。詩人。ブログ http://kikui-y.hatenablog.com/
オススメ記事
●シオラン名言集
Photo by Pixabay