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専門家って何だ? 《ひきこもりからAV女優になったまりなさんとの対話 第6回》 

写真・ぼそっと池井多


文・ぼそっと池井多まりな

 


この記事には性や性風俗に関わる語彙や表現が含まれます。

不快に思われる方は閲覧にご注意ください。

 

 

・・・第5回 からのつづき

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友人の反応

ぼそっと池井多 まりなさん、ごめんなさい。私が話の腰を折ってしまいましたね。
さっき、あなたがAV女優になる時にもう一人相談した大学時代のお友達の話をしようとしてました。(*1) 新聞記者をやってる、何とかいう……

 

*1. 本シリーズ第5回の冒頭を参照。

 

まりな リカ?

ぼそっと池井多 そうそう。リカさんは何とおっしゃったのか訊こうとして、ついついご家族の反応に私が話を流してしまいました。

まりな そうでしたね。

ぼそっと池井多 改めてお聞きします。リカさんはまりなさんのAVデビューについて何とおっしゃいましたか。

まりな 最初にお茶してサクっと話したとき、リカは賛成とも反対とも言いませんでした。でも、
「もう一回、ゆっくり会って話そう」
ということになり、二回目に会ったときに彼女の知人を連れてきたのです。その知人っていうのが、リカが新聞で連載を担当している大学の先生でした。三人で会うと、その先生がのっけから私に説得を始めたんです。

ぼそっと池井多 どんなことを?

まりな 「AV女優なんかになってはいけない。あなたは騙されているんだ。AV業界は性風俗業と同じく女性が男性に消費されて搾取されてるところで・・・」
みたいな話を一方的にするんですよ。

ぼそっと池井多 大学の先生というと、いくつぐらいの方? 女性?

まりな 女性です。まだ若い。私やリカと同じくらいか、ちょっと上くらい? アラフォーには行かないくらい。✖️✖️✖️✖️さんという方。

ぼそっと池井多 知らないな。もっともぼくが知らないのは当然だけど。

まりな フェミニズムの用語をたくさん使って、ようするにAV業界で働く女性はみんな頭が悪くて、男性にだまされて業界へ入って性的消費されている、みたいなことをおっしゃるのです。

ぼそっと池井多 それで、まりなさんはどう思われましたか。

まりな ムカつきますよね、それは。私の話なんかまったく聞こうとしないし。「いいことを教えてやろう」みたいな態度で。それでいて、AV業界の現場のことは何もご存じないようでした。

ぼそっと池井多 ああ、ときどき居ますね。そういう……

まりな だから私は「こんな人からは何も聞きたくない」と思って、トイレに行くふりして席を外して、トイレからリカに、
「ちょっと! なんでこんな人連れてきたの」
ってLINEしたんです。そしたら、
「だって、私じゃわからないから専門家を連れてきた」
って。

ぼそっと池井多 専門家(笑)

まりな あとから聞いたら、その先生、AV新法の制定にも関わっていた方だったようです。

 

AV新法をどう考えるか

ぼそっと池井多 AV新法って、最近よく話題になってるようですが、私のような門外漢にもわかりやすく説明してくださると、あれはいったいどういう問題なんですか(*2)

 

*2. この部分のインタビューは2024年2月に行われた。2022年6月に施行されたAV出演被害防止救済法はAV新法と通称され、その後2024年5月から改正の動きが活発化して、2024年12月18日に衆議院議員会館で院内集会が開かれ、問題点や改正の必要性について議論された。2025年1月23日時点で、具体的な法改正が実施されたとの情報は確認できないが、インタビューでまりなさんが語っている状況は読者の皆さんがこの記事を読んでいる時点ではすでに変わっている可能性もある。

 

まりな 私が思うに、あれは女性の自由を奪う法律だと思います。

ぼそっと池井多 どういうふうに女性の自由を奪うのですか。

まりな AV新法では、まず1ヵ月ルールというのができたんですよ。契約書にサインしてから撮影開始まで1ヵ月置かなくてはならないというルール。それから4ヵ月ルールというのができて、これは撮影が終わってから宣伝とか発売までに4ヵ月置かなくてはいけないというルール。さらに1年ルールというのがあって、これは発売してからも1年間は女優さんの希望によってメーカーやプロダクションは無条件で販売を取り下げなくてはいけないというルール。

ぼそっと池井多 AV新法っていうのは、もともとAVに出演を強要されたとか、出演したことで被害を受けた女優さんがいて、そういう女性を救うために作られた法律だったと聞いてましたけど。

まりな たしかにそういう事例がごく少数ありました。でも、ほんの一握りですよね。
新法の前まで、AV女優は月に200人はデビューしていたといいます。業界全体で活躍している女優さんの数となると、もう膨大ですよね。一つの町が作れるくらいでしょう。

それだけ居れば、事務所との関係が悪い人も、そりゃ中には出てきますよ。もちろん、被害に遭っている女性は助けなければいけませんが、でもたった一人や二人の例から全体のやり方を変えてしまう法律を作る必要があるのか、ってことです。

ぼそっと池井多 なるほど、そういう問題構造をさまざまな分野に見出すことができますね。

何か問題が起こると必ず「社会が悪い」ということになって、すぐ法整備という局面に行きたがる人が出てきます。それはどこでも同じ。ひきこもり界隈でいうと、ひきこもり基本法というのをつくれば、親は救われ、当事者も救われるように考えている人々がいらっしゃいます。

でも、問題の現実はそんな単純ではないと私はいつも思います。むしろ、単純な解決を考えた法令を作ってしまうと、かえって問題の本質が背後に隠れて、よけい解決が難しくなることが多いんじゃないでしょうか。

たしかに新しい法律を作れば解決することもある。でもその陰に弊害もある。また、新しい法律を作ろうと走り回ることで、自己陶酔してたり、自らの空虚を埋めようする一部の専門家や活動家が、いつのまにか自分たちの人生を優先しているケースがあると思うのです。
そういう人たちには、
「自分の生きがいのために、他人を勝手に弱者にして存在利用しないでほしい」
と言いたいですね。

AV新法では、AV女優という職業人が十把一からげに弱者とされて存在利用されたあげく、迷惑をこうむっているということなのかな。さっき、まりなさんが言った1ヵ月ルール、4ヵ月ルール、1年ルールができたことで、具体的には何が変わったのですか。

まりな いろいろな見方ができると思いますけど、私はやっぱり金融機関で働いていたから、キャッシュフローに目が行ってしまいます。

以前だったら契約から発売まで約3ヵ月だったのが、それが最短でも5ヵ月かかるようになりました。すると、その間2か月の運転資金をどこかから調達してこなくてはならない。発売して売れる保証がないのに融資してくれる所は少ないから、これがかなり厳しいんです。

ぼそっと池井多 お金の話になるわけか……。でも、運転資金とか資金繰りというのはメーカーやプロダクションの問題で、女優さんには関係ないんじゃないですか。

まりな それがそうは行かないのです。
じゃあ、たとえば一人の女の子がAV女優になろうと思ったとしましょうか。専属で契約して、撮影して、販売するとしたら、市場評価がわかるのは半年後になります。その間、その一本しか撮れません。以前はデビューの3か月後から毎月、出演料が入ってきていましたが、今では最初の半年で収入が4分の1になる計算です。

ぼそっと池井多 なるほど、AV新法が女性を貧しくしているのですね。

まりな お金だけじゃありません。
たとえば、撮影ってAV女優にとってやっぱり身体を中までリスクにさらすから、撮影日の体調ってものすごく大事じゃないですか。以前だったら、撮影の日に女優さんの体調がイマイチだったら、撮影を一日延ばしてもらったり、他の子に代わってもらうことができたんですが、今はそれができない。代わりの女優さんが見つかっても、新しく契約してまた一ヵ月経たないと撮影できないですから。

ぼそっと池井多 じゃあ、そういう時は代わりの女優さんを見つけるのもあきらめて、撮影日はただの休みにしちゃったらどうなるんですか。

まりな そしたらもっと大変。その日の現場はバラシということになります。

ぼそっと池井多 バラシ? ……馬刺バサシだったらよく居酒屋で食べますが、それとはちがうんですね。

まりな ちがいますね(笑)。組み立てたものを解体する、バラバラにする、という意味の「バラシ」です。

ちゃんとしたメーカーでは、撮影現場を一つ用意するのに、ものすごく手間暇をかけています。スタジオの予約から、照明さんメイクさんカメラさん音声さん男優さんなどなどいろんな方のスケジュールを調整して、準備に何ヵ月もかけるんです。

それがバラシとなると、集めたスタッフさんたちには何もしないで帰ってもらわなければいけない。それは1円も払わないで手ぶらで帰ってもらうことを意味します。ほとんどのスタッフさんはその日の収入を頼りにして現場に集まってきてますから、それでは不満が爆発します。

大きなメーカーだと、バラシになっても2割とか3割とか払ってるようですが、たいていは無給になります。運よく3割もらっても、やっぱりキツいです。こうしてAV新法によって女優さんだけでなく、業界で働く人たちみんなが経済的に追い詰められているのです。

ぼそっと池井多 それは大変ですね。

まりな そんなこともあるので、AV新法ができてからは、多くの女優さんは撮影の日に少々おなかが痛くても無理をして撮るようになってしまいました。だって「今日は体調が万全じゃないからやめておきたい」なんて言えば何人ものスタッフさんが生活できなくなるとしたら、責任重大でもう言えないじゃないですか。

ぼそっと池井多 AV新法によって女優さんがよけい酷使されているわけですね。そんな法律で締めつけられていたら、さぞかしAV業界で働く方は減ってきているでしょう。

まりな ええ。女優さんでいうと、適正AVじゃない、非合法AVに流れたり、あとコサツへ流れていきます。

ぼそっと池井多 コサツ?……古刹コサツというと、私は鬱蒼うっそうこけむした古いお寺を思い浮かべますが、そんな所にAV女優さんたちが大挙して押し寄せていくんでしょうか。

まりな またちがいますね。個撮コサツは「個人撮影」の略です。スマホで自分の身体やそういうシーンを撮って売るんです。最近はそれ系のサイトが増えましたから、そういう所に流れてるようですよ。
でも、事務所やメーカーを介していないぶんだけ、いろいろな意味であぶないし、中間搾取もされるらしいです。

ぼそっと池井多 つまり、女優さんたちの安心安全を守るために作られたはずの法律が、実際は女優さんたちを圧迫し、貧しくし、もっと危険な世界に追いやっているわけですね。そして、そういう法律を作っているのが業界の現実を知らない「専門家」の先生方だという構図があるわけですか。

写真・ぼそっと池井多

 

専門家は必要か

ぼそっと池井多 「専門家って何だろう? ほんとうに要るのか?」
ということを、私はよく考えるのですよ。

まりな ひきこもり界隈の専門家ってどういう人たちですか。

ぼそっと池井多 うん、そこで2つのカテゴリーの専門家を考えないといけないですね。

まず、第1の専門家は実務家。
私もよく当事者活動でコラボさせていただくのですが、弁護士・税理士・社会保険労務士・行政書士・FP(ファイナンシャルプランナー)といったひきこもりの生活を支える実務を扱う専門家です。この方々が持っていらっしゃる情報や知識や技量は、なかなか私たちひきこもり当事者が持てないものですから、やはりそういう専門家は必要ですよね。

でも、私がここで疑問視しているのは第2の専門家。評論家といってもよいかもしれません。
メディアでひきこもりという現象を高みからああだこうだと批評しているだけで、当事者という人間に向かい合っていない人たち。「社会が悪い」という、誰も責任を取らなくてよい結論に落としこんで収入を得ている印象があります。また、メディアもこういう人たちを「ひきこもりの専門家」として重宝がるのです。

まりな ぼそっとさんのお話が見えてきました。つまり、リカが連れてきたAV問題の専門家とAV女優になろうとしていた私の関係が、その「ひきこもりの専門家」と「ひきこもり当事者」の関係に似ているというわけですね。

ぼそっと池井多 そういうことです。さすがですね。

たとえば、ひきこもりに関するアンケートの設問でかなりの当事者がバツと答えているのに、そこへひきこもりの専門家を名乗るコメンテーターが出てきて、
「でも、ほんとうはひきこもり当事者たちはマルと考えています」
などと解説する。
✖というエビデンスが出たのに、それがあっけなく専門家の主観で〇になってしまうのです。
すると、メディアの視聴者や読者は「そうか、〇なんだ」と記憶する。なぜかというと「専門家」という存在には権威があるからです。大衆は権威に弱いです。

まりな そうですよね。

ぼそっと池井多 私たちひきこもり当事者活動をやっている者は、
「自分はひきこもりを代表できないし、代表してはならない」
ということをつねに肝に銘じてやってると思います。

ところが、当事者自身が当事者を代表しないようにしているのに、当事者でもない「専門家」が横から出てきて、やすやすと当事者を代表してしまう。なぜそのようなことがまかり通るかといえば、これも専門家という立場についてくる権威のためでしょう。

まりな かもしれませんね。

ぼそっと池井多 さらに、こういうこともあります。
例えば同じ場所に出演しても、専門家と当事者ではいただけるギャランティーの額が1桁違うなんてことがありました。話している内容ではなく、話す人間の社会的地位で金額が決まるんですね。

「だって専門家はプロ、当事者はアマだから金額がちがうんだ」
とメディア側はいうかもしれませんが、
「プロだったら間違ったことを言えないはずだ。なのに、現実はそうじゃない。間違ったことを平気で言いまくってるのにギャラだけ高いっておかしくないですか」
って言いたいですよ。

こういうのを見てくると、
「いったい、ひきこもりの専門家って何だ? そんな存在、必要なのか」
と考えざるをえないのです。

まりな そうですね。私もAV新法の件では、AV問題の専門家に似たような疑問を感じています。

 

ぼそっと池井多 それで……、専門家を連れてきたリカさんは、まりなさんがAV女優になることに関して最終的に何とおっしゃったんですか。

まりな じつは、その件でリカとは関係が悪くなってしまって。リカとは切れる形で、私はAV女優になったんです。

ぼそっと池井多 なんと、それは悲しいですね。彼氏とも別れ、ご両親とも衝突し、大学時代からの親友とも切れて、満身創痍でAV女優になった感じですか。

まりな そうなんです。もうあの時は孤独でボロボロでした。……でも、迎えてくれた今の業界の人たちが温かかったんです。それで救われました。ぼそっとさん初め「ひ老会」の人たちも話を聞いてくださいましたし。

きっとあれは私にとって必要な人生のステップだったんだと思います。あのとき思い切らなかったら、たぶん私は今でもひきこもりでした。

 

・・・まりなさんとの対話 第7回へつづく

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<プロフィール>

まりな AV女優。有名私立中高、一流大学を経て、大手金融機関に勤めたのち司法試験を目指すために退職。家で勉学中にひきこもりとなり、人生を切り拓くためにAV女優へ転身する。
「商品としての私と、自分を語る私はきっちり分けたい」として芸名、所属事務所、発売レーベル、出演作品などは非公表。
俳優という存在は誰しももともとセクシーな魅力を売り物にしうる職業であるとして「セクシー女優」と呼称されることは好まない。

ぼそっと池井多 中高年ひきこもり当事者。本誌HIKIPOS副編集長。ひきこもり当事者団体VOSOT(チームぼそっと)主宰。
ひきこもり当事者としてメディアなどに出た結果、一部の他の当事者たちから嫉みを買い、特定の人物の申立てにより2021年11月からVOSOT公式ブログの全記事が閲覧できなくされている。
著書に
世界のひきこもり 地下茎コスモポリタニズムの出現』(2020, 寿郎社)。

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