文・
「つくる」より「つづく」が難しい当事者会
ぼそっと 結実さんが代表を務める 居場所~特性を生かす道~(略称「いばとく」)が活動されているのは、どちらですか。
結実 大分県です。
ぼそっと 東京近辺に比べて、地方では当事者活動が少ないと聞きます。大分はいかがですか。
結実 やはり少ないですね。もともと人口が少ないということがありますが、それを差し引いても当事者活動は少ないです。田舎なので、ポツ、ポツ、とあるだけで。
ぼそっと 新しく作ろうという人はいらっしゃらないですか。
結実 いちおう、いらっしゃいます。でも、たいてい続かないんですよ。一年続けば、いい方で。
大分で残っているのはうちぐらいなんです。他は細々と活動していることになっているけれど、実質上はもう人も集まらなくて、消えてしまっていて。
ぼそっと 当事者活動は「つくる」よりも「つづく」が難しいと思います。勢いで始められるけど、勢いでは続かないですね。
結実 本当にそう思います。でも、関東や関西など大都市周辺では、新しくできてくる数も多いから、たとえ一つ一つが続かなくても、つねに一定数、当事者団体があるんじゃないですか。
ぼそっと そうかもしれません。当事者会の継続期間について統計を取ってみると面白いかもしれませんね。
県のピアサポーターとして
ぼそっと それでは、ご活動は大分県の中ということになりますか。
結実 いいえ、じつはお隣の福岡県にもよく行くのです。福岡県ひきこもりサポーターとして登録しているので。講演会などで呼ばれるたびに、福岡には行っています。
ぼそっと へえ、それはどういう資格ですか。
結実 福岡県がつくっている資格です。はじめ、大分県ではそういうことをやっていない、ということがわかったときに、私が大分県に話をしに行きました。そうしたら、県はKHJに研修の講師を依頼すると言っていました。
「だったら私がKHJのピアサポーター資格を取ろう」ということで、KHJの方で取らせていただいたら、KHJとつながりが強くなって、KHJ福岡県楠の会さんから講演を依頼されて福岡県と繋がりました。
ぼそっと へえ、すごいですね。私なんかKHJ本部に対して、ズケズケいろいろ言っちゃうから、さっぱりダメですね。(笑)
それで、福岡県の方は何と?
結実 「当事者の声を聞きたい」ということだったので、私ともう一人の当事者が講演しに行きました。
そのとき、KHJ福岡支部である楠の会の当事者の方にも聞いたんですけど、福岡のほうでも当事者活動がすごくむずかしいということでした。
「やっぱり続かない。すぐ消えてなくなる。一年もたない。」
「当事者会がないので、他の当事者の人と交流したことがない」
って。どこも同じだと思いました。
ぼそっと 家族会はあるけれど当事者会がない、という地方も多いようですね。
結実 だから私は、
「え、そうなんですか。当事者同士で交流するのって、いいんですよ。お互い共感もできるし、悩みの相談もできるし」
って言いました。
ぼそっと 「家族会があるからいいだろう」っていうのは家族会の論理であって、やはり家族会は親の意見が優先されるから、当事者は子どもの立場の意見が前面に出せる当事者会がほしいと思っている。そんな当事者の方、私は地方にたくさん存じ上げています。
地方の行政も、
「当地の家族会を支援しているから、それでいいだろう」
と思ってしまっている。
そこで私などは、
「そうじゃないんですよ。親と子では、ひきこもりという問題に対して意見はほんらい対立しているのです。経営者と労働組合みたいなものなんです。行政ももっとそちらの当事者活動を支援してください」
と行政の方に申し上げるのですが、なかなかわかってもらえません。
結実 その点、福岡県はよかったですよ。
「なんとか当事者たちの活動を手伝いたい」
と言ってくださいって、私と楠の会さんに、
「福岡で当事者が活動できる場をいっしょに作ってほしい」
と相談してきたのです。
私は県外の在住者なので、「福岡県ひきこもりサポーター」という資格をいただいて、福岡県で活動することになりました。
ぼそっと なるほど。それでよく福岡県へ行かれるのですね。すぐお隣の県とはいえ、けっこう遠いでしょう。
結実 そうですね。福岡市まで片道、高速バスで3時間ぐらいです。日帰りはできないので、一晩泊まって帰ってきます。
最近はコロナで行けないので、活動ができていません。
ぼそっと 大分県とはどうですか。
結実 地元の県とはあまり連携ができていないのが実状です。こちらからは何回も言っているんですが……。たぶん私たちは、よくわからない団体というふうに見られているのではないか、と思います。
ぼそっと それは、もう少し詳しく教えていただくと、どういうことですか。
結実 県内の田舎の方の社協とか訪れたりしているんですけど、たいがい変な目で見られます。
「もし当事者の人たちが社協を訪ねて来た時は、ご協力お願いします。」
「何か困ったことがあったら、当事者として相談に乗ります」
みたいなことを言って回っているのですが、なかなか受け入れてもらえません。
「なんだ、この人たちは」
みたいな感じで見られるのです。
ぼそっと おやおや、それはどうにかしたいですね。
当事者会を楽しくするコツ
ぼそっと 一年もたないで消えてしまう当事者活動が多いなかで、結実さんが運営している「いばとく」だけはずっと続いていますね。いったいなぜでしょうか。
結実 そうですね……。
第一に当事者目線であること。意見の食い違いもあるんですけど、そもそも私たちはコミュニケーションが苦手な人が集まっているので、それを前提に話をして、何かトラブルがあったら、お互い否定や批判をしないで、ちゃんとみんなで話し合います。それが続く理由じゃないでしょうか。
ぼそっと 皆さん、どんな感じで参加されていますか。
結実 最初はみんな苦しくて、悲しくて、泣いてしまう人が多いんですよね。そういうときには真剣に聞いてあげます。こちらも泣きながら話をしたり。そのあいだにちょっと楽しいアイスブレイクをしたり、お笑いを入れたり、趣味の話もしたりして。
苦しい話だけじゃなく、楽しい話と交互にするようにしています。
悲しいだけだと傷の舐めあいになってしまうので、「つらい、悲しい」だけじゃなくて、何か希望になるものを織り交ぜて、最終的に「みんなと会えてよかった」という後味を持ち帰ってくれることを心がけています。
ぼそっと そういう運営の仕方を、結実さんはどういうところから学んでこられたのですか。
結実 自分で当事者活動を始める前に、家族会に参加していたのですね。すると、家族会ではお母さんたちが泣いて泣いて、参加していてすごくつらかったんです。「これじゃあ、ダメだ」と思って。
私も子どもがいて、二人ひきこもって十数年以上苦しんできたので、悲しいのはわかるんですけど、でも、そこから先がなかったんですね。
支援者の人たちと相談していても同じで、そこから先がなくて。
「支援につながったら、その先がありますよ」
っていうんだけど、そこまで行く力がないんですよ。だから、まだ支援につながれない人のためにも、当事者会を作りました。
当事者会は、支援への中間地点として、同じような傷を負って共感してくれる仲間たちのなかで、コミュニケーションする楽しさを取り戻す場所です。支援につながるのは、それからだと思うんです。
ぼそっと 当事者会を楽しくするために、どういう工夫をされていますか。
結実 私たちの居場所のなかに、いろいろな部活があるんです。
「音楽部」、「読書会」、「ゲーム部」、「お笑い部」、「通話配信グループ」などなど。コロナ禍でもチャットで活躍してます。
それから「保健室」もあります。ここは「つらい」「死にたい」について話す場で、いつでも出入りできるようにしてあります。
部活の運営は、部長さんにお任せしてます。来るひとは、年齢も性別もみんなちがう。やはり、当事者活動はそういう楽しみがないと。
ぼそっと へえ、おもしろいですね。東京の方にたくさんある当事者会は、それぞれに活動内容や特徴がちがいます。だから、そちらの部活にあたる活動が、こちらでは一つの当事者会として成立していたりします。ところが、そちらは一つの当事者会のなかの分科会というか、部活としてそういう活動がおこなわれているのですね。
まずは地域特有の環境を認める
ぼそっと 「居場所〜特性を生かす道~」という名称には「ひきこもり」とか「発達障害」といったワードを入れなかったのですね。
結実 そうです。生きづらさがあると感じたら、もう仲間です。ひきこもりだから、発達障害だから、HSPだから、ということは言いません。そういうことを言い始めると、お互い隔たりができてしまうので。
ふだんから、一人のひととして見ている。障害名は後からついてくるものだから。
ぼそっと メンバーには、どういう方が多いですか。
結実 ひきこもりや発達障害の人、何らかの疾患や障害を抱えている人や虐待されて希死念慮が強い人達が多くいます。
ぼそっと 結実さんご自身は、どのような道を歩んでこられたのですか。
結実 外の人たちに向けて話すときは、自分はひきこもりだと言っています。
活動を始める前は寝たり起きたりで、外に出られませんでした。人生ほとんど寝て過ごしていました。私の場合、身体が動かなくなるのです。椅子に座ることもできなくなって。座っていると、ずるずる滑り落ちてしまう。そこから自分で起き上がることも、立ち上がることもできませんでした。
そういう状態を20年近く続けていました。精神的にも身体的にもしんどい状況でした。
発達障害というのを知らなかったので、子どもたちが初めにおかしくなって。二人とも学校で先生に意地悪をされて、学校へ行けなくなったんですけど、そのときも私はすごく悩みました。子どもたちが発達障害とわかって、それから私自身も発達障害とわかって、だいぶ自分のコントロールの仕方がわかりました。
ぼそっと 今のように動けるようになったのは、いつごろですか。
結実 ほんの2年前です。ここに引っ越してきて10年経つんですけど、今年になってようやくゴミ出しに出られるようになりました。今も出かけるとなったら、調整してお薬のんで行きます。
ぼそっと 私もそうですね。
結実 正直をいって、地方は生きづらいです。ジェンダーバイアスも強く、ひきこもりに関連して、いくつか殺人事件や傷害事件が起こってきました。
ああいう事件に関しては、メディアが伝えていない事実が背景にあります。
私自身、ああいう事件が起こるたびに、ものすごく怖かったし、自分も一歩間違えばああなっていたかもしれない、とも思いました。あのようにならざるをえないものが、地域の地域社会の中に環境としてあるのです。
でも、それは誰が悪いというものでもなく、誰かの責任でもない。ただそういう事実がある。それを、私たちは受け止めなければいけません。そのうえで、地域でどういうふうに見られているか、地域でどのように声を上げていくか、地域とどのように関わっていきたいか、といったことを考えなくてはならないのです。
でも、そこでただ言いたい放題言うだけでは、「なんだ、この人たちは」ということになってしまうので、地元ではそれなりのことはしていかなくちゃいけないかな、と思っています。まずは私たちを知ってもらうこと、そして行政に不満をいうだけじゃなくて、自分たちでやれるところは自分たちでやっていくことが大切です。
ぼそっと どうもありがとうございました。
(了)
居場所~特性を生かす道~(略称:いばとく)
ホームページ https://ibashotokusei.theblog.me/
メール tokuseilove1★gmail.com ★→@
twitter @tokuseilove