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【家族会と当事者】親が家族会をやめたので私はひきこもりをやめた ~ ひきこもり当事者みつきさんインタビュー

無言の取り引き 写真・PhotoAC

 

文:みつきぼそっと池井多


7月末に某ひきこもり家族会の全国組織からアンケート結果が発表され(*1)て、そのなかにひきこもり当事者と家族会の関係を述べている項目があった。
その項目を読んで、私は以前からよく私の所へ「親が家族会へ行っていることが嫌だ」と訴える当事者の方々からメールやメッセージが来ることを思い出した。
そこでこのたび、そういう当事者の方々に私から改めて詳しくお話を聞きたいとメールをお出しした。
その中でみつきさんはお返事をくださり、急遽リモートでインタビューに応じてくれることになった。

 

母はこっそり家族会へ

ぼそっと池井多 お時間取っていただき、どうもありがとうございます。

みつき よろしくお願いします。

ぼそっと池井多 最初にみつきさんからメールをいただいたのは5年ぐらい前でしたっけ。

みつき ええっ! もうそんなになりますか。憶えていないです。

ぼそっと池井多 「母が家族会へ行っているのが嫌でたまりません」という内容だったと思います。

みつき そんなことを書いたような気がします。

ぼそっと池井多 初めに、差し支えない範囲でみつきさんの来歴を改めて教えてくれますか。

みつき はい。私は高校1年生で不登校になりました。それからずっとひきこもっていました。

ぼそっと池井多 これまた差し支えなければでいいですが、ご年齢をうかがってもよろしいですか。

みつき えーっと、今年で大台に乗りました。

ぼそっと池井多 何の大台に乗ったか、という点については「ご想像にお任せします」ってことですね。

みつき そうです(笑)

ぼそっと池井多 三ケタの大台かもしれないし(笑)

みつき いやいや、さすがに100歳ってことは(笑)

ぼそっと池井多 お母さまが家族会へ行くようになったのは、いつごろですか。

みつき 私が19ぐらいのころだったと思います。

ぼそっと池井多 家族会にはお父さまも行っていました?

みつき 父はそういうことにはぜんぜん興味がありません。

ぼそっと池井多 初めお母さまは、「今日から家族会へ行くからね」という感じで行くようになったんですか。

みつき いいえ、行き始めたことは私に隠してました。

ぼそっと池井多 隠してもわかったんですね。

みつき 私に知られないようにこっそりと出かけていけば、こっちも何かおかしいと気づきますよね。そのうち電話がかかってきたときに母親がそっと場をはずして台所や外で電話に出たりして、父親もそれを黙認しているふうだったりして、それで何か私のことで私に隠してやってるな、と確信するようになりました。

ぼそっと池井多 お母さまはずっと隠し通そうとしたのですか。

みつき いいえ、だんだんそれとなく私も一緒に行くように誘うようになってきたのです。家族会が主催する、当事者も参加できるイベントがある時なんかに、そのチラシをピアノの上にわざと置きっぱなしにしたりしてました。ピアノに置いておくと、どうしても私が見るので。

ぼそっと池井多 チラシが目に入っても、みつきさんは行く気にはならなかった?

みつき なるわけ、ないですよね。

ぼそっと池井多 なぜ。

みつき だって、そういう所へ行って、私は何かいいことありますか。

ぼそっと池井多 うーん、「いいこと」ねえ。まあ、人によりけりだと思いますが、みつきさんは「ない」と思ったんですね。

みつき そうですね。

ぼそっと池井多 お母さまがあなたに隠さずに堂々と行くようになって、どう思いましたか。

みつき めっちゃ嫌でした。

ぼそっと池井多 隠して行っていても嫌だし、おおっぴらに行っていても嫌だったのですね。

みつき そうです。

ぼそっと池井多 どうして嫌だったのでしょうね。

 

母は家族会にパワーを割かれて

みつき うーん、どうして嫌だったか。言葉にするのは難しいんですが…。

ぼそっと池井多 難しいでしょうね。それじゃあ、思い当たることを細切れでもいいので、挙げてみていただけませんか。

みつき まず、プレッシャーですよね。
「あんたが何もしないで家でノンベンダラリと過ごしてる間、わたしはこんな所へ行って、あんたのことをやってあげてるのよね」
という無言の押し売りみたいなのを感じてました。
そんなこと、私は頼んでないし、そんなことしてくれたところで、何にもならないし、私は嬉しくない。ていうか、圧をかけられて、かえって嫌な気分になる。

ぼそっと池井多 家族会の全国組織が発表したアンケート結果によると、親が家族会へ行っていることで喜んでいる当事者もけっこういるようですけどね。

みつき よその家のことは知りません。とにかく私は嫌だった、ということです。

ぼそっと池井多 はい。

みつき 母親が家族会へ行ってれば、そのぶん私のこと考えてないじゃないですか。

ぼそっと池井多 へえ。そこは何か逆説的で新鮮というか……。ちょっと、そこをもう少し詳しく教えていただけますか。

みつき 「家族会へ行っている」ということで、母親はひきこもりの子を持った親としての宿題を果たしてる気分になってたんじゃないかと思います。だから、母は家族会にパワーを割かれる。
でも、私としてはそんなことやらなくていいから、もっと私に向き合ってほしかった。もっと私の話を最後まで辛抱強く聴くとか、やるべきことは他にいくらでもあったと思います。

ぼそっと池井多 なるほど、だからお母さまが家族会へ行くのがみつきさんは嫌だったんですね。

みつき もっと言うと、家族会へ出かけていくことで母親は外に交流ができていくのに、外へ出ていけない私は取り残される、というのも嫌でした。

ぼそっと池井多 うーむ、それはお母さまが家族会で活動することによって社会に居場所を得て、社会から存在承認を与えられるのに、ひきこもっているあなたには居場所がなく、どこからも存在承認も与えられないために、よけい孤立していったってことでしょうか。

みつき そういうふうに言ってもいいと思います。それで、母親が社会からもらっている承認は、私がひきこもってるからこそもらえているのに、私には何もポイント還元とかなくて、母親だけが全部持っていく、みたいな。

ぼそっと池井多 ポイント還元っていうのは面白いですね。このごろは「ポイ活」っていうんですか、あれをやってる人多いですからね。私は面倒くさいので、いっさいやらないですけど…。
つまりお母さまはあなたのひきこもりをダシにして社会から承認を得ているのに、あなたはダシにされるだけで何も得がない。だから不公平感があるし、悔しかった、ということでしょうか。

みつき はい、そういうふうに言ってもらっていいと思います。

 

母がやめたので私もやめた

ぼそっと池井多 それで、あなたの場合、転機が訪れたんですよね。いつでしたか。

みつき 去年(2023年)の夏ぐらいでした。

ぼそっと池井多 どういうふうに変わってきたのでしょう。

みつき 母親はそれまですんごく家族会にのめりこんでました。
コロナで月例会なんかも開かれない時が多かったので、よけいに開かれた月は必ず行く、みたいな。そのぶん、それを嫌がっている私とギスギスすることも多くなってたんです。

でも、コロナが下火になって、月例会もまた毎月開かれるようになってくると、母親も冷静に考えられるようになったのか、
「娘が嫌がってるのに、こんな熱心に通って、いったい何になるんだろう」
とか考え始めたんじゃないでしょうか。
「自分も意地になって家族会へ通ってた」
とか、反省したのかもしれません。
それか、家族会のなかの人間関係で何かあったのかもしれません。そこは、私は知りません。

それで母親はだんだん家族会から足が遠のいていきました。
そして、今年に入ったくらいに「もう行かない」と言いました。
実際、もう行ってないようです。

ぼそっと池井多 そうですか。それであなたにはどういう影響がありましたか。

みつき 私もひきこもりをやめたんです。

ぼそっと池井多 あなたが働き始めた、ということでしょうか。

みつき ええ、でも「働く」と言っても週3日、半日だけ、近くのNPOで事務作業とかお手伝いをしてるだけで、フルに働いてる人たちに比べたらまだぜんぜん働いてる部類に入らないんですが……
でも、生まれてこのかたお金を稼いだことがなかったので、ほんの少しのバイト代でも自分が働くことでお金がもらえるようになったという意味では、この変化は私にとって大きいのです。

ぼそっと池井多 すごいじゃないですか。それで、今は大変ですか。

みつき まあ、働いてるペースがゆるいからかもしれませんが、そんなに大変でもありません。少なくとも、ひきこもってた時期に「働いたら大変だろうなあ」と想像していたほどには大変じゃありません。もし、これがフルタイムで働くとか、もっとキツい仕事を始めるとかになったら、もちろん別でしょうけれど。今のところはこのバイトを続けて、もっとやれるようならば時間を延ばしていこうと思っています。

ぼそっと池井多 すばらしいですね。……それで、ここが私は今日いちばんお訊きしたいのですが、なぜお母さんが家族会へ行かなくなったら、あなたが働き始めたんでしょうね。

みつき そうですね、まずプレッシャーがなくなった、というのと……
あとは、変な例えですがトランプみたいなものかな、と。

ぼそっと池井多 トランプ? アメリカ大統領選が何かからんでるんですか。

みつき ちがいます(笑) トランプでほら、相手が持っているカードを捨てたら、こっちも捨てる、みたいなルールがあるじゃないですか。

ぼそっと池井多 ああ、ポーカーみたいなゲームでね。

みつき あれと同じで、母親が家族会をやめたんだから、私も何かやめなくちゃいけないと思って、それでひきこもりをやめた、みたいなところがあります。うまく言えないんですけど。

ぼそっと池井多 へえ! 面白いですね! 家族のなかの無言の取り引きみたいなことですね。あなたはお母さまと対等であろうとしてひきこもりをやめたのでしょうかね。

みつき そういうことになりますか。

ぼそっと池井多 なるほど。それはあなたの人としてのプライドのかたちかもしれないな。……

あなたの場合、もともとお母さまとの間にきっと競合関係があったのでしょう。その競合関係が、親が家族会へ行くことで増悪されていたのかもしれませんね。
ひきこもりは百人百様。とても考えさせられるお話でした。
今日はどうもありがとうございました。

みつき ありがとうございました。


(了)


 

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