文・ぼそっと池井多
最近、韓国のひきこもり事情についてお話をうかがう機会が増えた。
知れば知るほど、それは日本のひきこもり事情について考えることだ、と気づかされる。
このシリーズでは、まず第1回目の今回、韓国のひきこもりが生み出されている背景を、日本と比較しながら見ていこうと思う。
日本とよく似た発生構造
ひきこもりの様子が日本ともっとも似ているのは韓国だ、ということはあちこちで言われている。
ある意味で、日本のいろいろな所を極端にしたのが韓国だ、とも。
社会の構造や文化が似ているということがあるが、なかでも厳しい学歴社会、受験戦争が共通点に挙げられる。
ところが、韓国の学歴社会や受験戦争は、日本よりもずっと厳しいようである。
日本の大学入試センター試験にあたるものが韓国では大学修学能力試験(대학수학능력시험)であり、修能(수능 / スヌン)と通称されている。この試験の結果が適用される範囲は、日本のセンター試験よりも広く、韓国内のほとんどの大学の入学審査に採用されている。
試験日は入学の前年にあたる11月の木曜日に設定され、朝8:40から夕方17:40まで、1日で全ての科目を終える。追試験・再試験は実施されない。
そのため、受験会場に間に合わない学生を警察車両が送り届けたり、飛行機の離着陸の制限が行われたり、会社員たちの出社時間が変更になったり、まさに修能の日は国を挙げて受験一色になる。
この試験で成績がふるわなかった学生は、将来を悲観して自殺することもある。
じっさい、最近の資料でも韓国は自殺率が世界でもっとも高い国である。
日本も自殺が多く、若い世代の死因のトップは自殺であることがよくメディアに取り上げられるが、OECDによると2018年の年間自殺者は10万人あたり韓国は23.0人と世界第1位、日本は14.9人とアジアでは韓国のすぐ次を追っている。
日本では専門学校で教えられる内容も、韓国では大学のカリキュラムに織り込まれているため、大学進学率は韓国は日本よりはるかに高い。代表的な2008年で見てみると、韓国が83.8%、日本が55.3%(*1)となっている。
そして人々は、
「良い大学を出れば、良い人生が待っている」
という幻想を、ひじょうに強く持っている。
*1. 韓国:中央日報 https://s.japanese.joins.com/JArticle/239873
日本 1975~2008:年次統計 https://nenji-toukei.com/n/kiji/10064
それでは、その「良い人生」というのは何かというと、三星(サムスン)、現代(ヒュンダイ)、LG電子といった、日本でも多くの人が聞いたことのある財閥系企業に就職することだと考えられている。
それ以外の企業は、みんなこれら財閥系企業の下請けにすぎず、給料も比べものにならないくらい低い。
だから韓国のほとんどの若者たちにとって、これら財閥系企業に就職することが人生のゴールのようになっていて、そのために大学へ行く。
なにやら、ひと昔前の日本で「正社員」を目指す人たちを想わせる。
だけど、そんじょそこらの大学へ行っても、満足のいく就職はできず、
「やっぱりソウルの大学じゃないとダメ」
というソウル信仰があるらしい(*2)。
*2. LangHacks 2020.06.22
首都ソウルには、現在21の大学がある。
しかし、それのどこでもいいというわけではなく、その中でもSKYと呼ばれるトップ3でないと財閥系には就職できないのだという。ソウル大学(S)、高麗(コリョ)大学(K)、延世(ヨンセ)大学(Y)という3つの大学だ。
ところが、そのSKYを出ても就職率は66.2%(*3)にすぎず、3人に1人は就職できないというから、競争社会のすさまじさがわかる。
*3. 2017年、朝鮮日報
・・・第2回へつづく
<プロフィール>
ぼそっと池井多 東京在住の中高年ひきこもり当事者。23歳よりひきこもり始め、「そとこもり」「うちこもり」など多様な形で断続的にひきこもり続け現在に到る。VOSOT(チームぼそっと)主宰。2020年10月、『世界のひきこもり 地下茎コスモポリタニズムの出現』(寿郎社)刊。
Facebook : Vosot.Ikeida / Twitter : @vosot_just / Instagram : vosot.ikeida