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彼に捨てられないから私は不安だった ひきこもりからAV女優になったまりなさんとの対話  第2回

写真・ぼそっと池井多

文・ぼそっと池井多まりな

 

この記事には性や性風俗に関わる語彙や表現が含まれます。

不快に思われる方は閲覧にご注意ください。

 

・・・第1回からのつづき

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前回までのあらすじ

まりなさんは小学校から大学まで成績がよく、どこへ行っても一番でがんばってきた。大手金融機関に就職してからも営業成績トップを目指していたが、もともと経済畑でなかったために人一倍勉強をしなくてはならず、やがて努力のしすぎで病気になり、会社を辞めることになった。

しかし不屈の精神で、今度は司法試験を目指して勉強を始める。ところが、そこでまりなさんは「沼って」しまった。……

 

ひきこもりになった理由を語るには

ぼそっと池井多 どういうふうに沼ったのですか。

まりな まあ、ひと言でいえば、年月をかけてひきこもりになっていったわけです。とてもひと言ではいえないんですけど。

ぼそっと池井多 ひと言ではいえないでしょうねえ。
ひきこもりになった人、誰でもそうだと思いますが、
「どうしてひきこもりになったんですか」
と質問されると困ってしまうと思うんですよ。

ところが、ひきこもりの実情を何も知らない人は必ずこれを訊いてくる。メディアの人なんか特に。でも、ひきこもりになるまでには様々な原因が複雑にからまっているので、それを解きほぐすことなく、ひきこもりになった経緯を端的にひと言で語れるわけがない。

だから、私はまりなさんに、
「どうしてひきこもりになったんですか」
とは訊きません。
そのかわり、たくさんあるに違いない、様々な要因の中で思いつくものから一つずつ挙げてみていただけませんか。

まりな あ、それ、いいですね。わかりました。

まず私のなかに焦りがあったんでしょうね。
会社を辞めた、と。それで一応、司法試験を目指して勉強してるから、社会的には格好はつくけど、同期はどんどんそれぞれの分野で責任ある仕事を任されていくのに、私だけこんなことをしてていいの?って。だいたい司法試験受けるっていうけど、受かる保証あるの?って。

そういう焦りがあったから、むかし学校で一番取ったときのような集中力が発揮できなかったんだと思います。

ぼそっと池井多 そういう焦りって、試験を受ける受けないに関わらず、ほとんどのひきこもりが苦しんでいるものかもしれませんね。

……他の原因としてはいかがでしょう。

まりな そこへ持ってきてダメージを受けたのが失恋でした。
私は大学時代からお付き合いさせていただいていた人がいました。就職したのは別々の会社だったんだけど、本社が二人とも都心だったこともあって、勤めていたころは残業帰りにサクッと会ってから帰ることもよくありました。これが良かったのです。たとえ1時間でも、彼と会えることが私の日々の精神安定に役立っていたんですね、後から振り返れば。

ぼそっと池井多 いいなあ。私は会社は勤めたくないけど、会社帰りのデートだけはしてみたい(笑)

まりな ところが私が会社を辞めてから、彼と会う機会が激減してしまった。私の実家は都心から遠いですから、彼に「会社帰りに会いに来て」というわけいかないし、私も勉強している身だから夜に都心まで彼に会いに出ていくのも気が引けるし。昼間にロースクールまで出かける日はあるんですが、時間的に彼は仕事中だし。

ぼそっと池井多 サボらせるわけにいかないんですね。

まりな いかないですよー。私は焦ってるから集中できなくて、勉強はちっとも進まない。進まないから、また焦ってきて。

会社辞めたころは、私が試験に受かったら結婚しようみたいな話が出ていたんですが、これじゃいつになったら結婚できるかわからないし、私も出歩かなくなってブクブク太ってきちゃったもんだから、女子力がどんどん低下してきて、このまま齢ばかりとってどうするの、って。

おまけに、このころ妹がまだ学生のくせに、何にも先々のことを考えないで彼氏の部屋に転がりこんで同棲を始めたんですよ。これで姉の私はいよいよ追い詰められました。毎日何かに怒ってましたね。

 

自己評価が下がってきて

ぼそっと池井多 なるほど、まりなさんはいろいろ先々のことを考えて行き詰っているのに、先々のことを考えない楽天家の妹さんの方が人生うまくいきそうみたいになってきた、と。それは怒りが出てくるかもしれませんね。
まりなさんの彼氏さんは、まりなさんの勉強の進捗状況については何かおっしゃっていましたか。

まりな それが何も言わなかったんです。そこが彼のすばらしかった所だと思います。
「がんばれ」とプレッシャーもかけなかったし、「早く受かってくれないと結婚できないじゃないか」とか急き立てることもありませんでした。彼は私のことを考えて、そういう言葉はいっさい控えていたのだと思います。

でも、そういうふうに彼が "できた人" であればあるほど、私が自滅していったんです。

ぼそっと池井多 どういうことでしょう?
……ごめんね、答えたくなかったら、答えなくていいんですよ。

まりな いえ、大丈夫です。良い機会ですから、私も棚卸ししたいのでとことん話します。

私はもうメンタルおかしくなりかけていたので、ほとんど妄想というか、彼が、
「こいつ、会社で働いてたころと比べて太ってブスになったなあ。頭わるいからいつまで経っても試験にも受からない。これじゃあ永久に結婚なんかできない。そこへ行くとおれの会社にも取引先にも、頭がよくてスリムで性格も良くて可愛い女がたくさんいる。さっさと乗り換えたいけど、それじゃあおれが悪い男になっちゃうから、見せかけだけでも関係を続けておいてやろう」
とか考えているんじゃないか、と勝手に考えるようになっていたんです。
もう、どうしようもない女ですよね。

ぼそっと池井多 いやいや、まりなさんも苦しい状況にあったのだから、そう考えてしまう必然性があったのでしょう。そんなにご自分を責めることはないと思いますよ。

まりな いえいえ、ちょっとイっちゃってたと思います、私。

会社勤めてたころとちがって、なかなか彼と会えない、だから不満がたまる。それで二か月に一回とか、やっと会えると、「どうせ私のこと、こう思ってるんでしょ!」とか言って、会えない不満を彼にぶつけて、私の妄想を彼の口から ”自白” させようとしていたのです。

彼は、
「いやいや、そんなこと考えてるわけないじゃん。おれは相変わらずまりなが好きだし、それがいつになろうともまりなが受かって結婚できる日を待っているよ」
とか言ってくれているのに、私は、
「ほら、また嘘ついて。もう会社に別の女がいるんでしょ。白状しなさいよ。もう私との結婚なんか考えてないでしょ。正直に言ったら?」
なんて金切り声で怒鳴りちらしたこともありました。

ぼそっと池井多 それだけ追い詰められてたんですね。

まりな そのうちに彼が、
「わかった。そんなに言うなら、そういう風にまりなのことを考えてるとおれが言えば、まりなは満足なんだな。おれがまりなの目の前に現われるかぎり、おれがそう考えていないと、まりなは不安なんだな」
と言うようになって、
「でも、おれはそんな風にまりなのことを考えてない。考えることはできない。だから、もう目の前に現われない方がいいのかもしれない、二人のために」
と言われて、別れることになっちゃいました。

こうして捨てられたんですが、これは彼が私を捨てるように、私が二人の関係をそこへ持っていった結果なんですよね。だから、彼が捨てたのか、私が捨てたのか、わかりません。ともかく関係が終わったのです。

ぼそっと池井多 「関係が終わる」って、巷ではよくひと言でいうけど、残酷ですよね。私なんかそういうことが起こるたびに、いくつになっても生きる意味を見失いますよ。

ともかく、それじゃあ、そのころまりなさんは自己評価が低くなっていて、
「こんな自分は彼みたいな良い男と結婚できるわけがないから、いずれ捨てられる。でも、いつ捨てられるかわからないのは不安だから、こちらから仕掛けて早く捨ててもらおう。捨てられてしまえば、もうそれ以上捨てられることはないから安心だ」
とか考えていたのでしょうか。

まりな そう! 私は捨てられないから不安だったのです。

ぼそっと池井多 それで、実際に捨てられたら安心できましたか。

まりな そうですね…。不安はなくなったかもしれないけど、いっしょに希望もなくなってしまって。勉強をがんばる理由もなくなって、生きる意味も見失って、真っ暗闇のどん底へ落ちていきました。

 

……第3回へつづく

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<インタビュワー>

ぼそっと池井多 中高年ひきこもり当事者。VOSOT(チームぼそっと)主宰。著書に世界のひきこもり 地下茎コスモポリタニズムの出現』(2020, 寿郎社)。

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