文・井口(仮)
編集・ぼそっと池井多
・・・・第5回からのつづき
図書館でのアルバイトを始める
若者自立中央支援センターでのやり取りと並行して、
図書館でのアルバイトを始めました。
図書館でのアルバイトは週に1、2回、
1日3時間くらいの短い時間で、
仕事内容は主に配架という、
返却された本を元にあった本棚に戻す作業でした。
僕はとりあえず、
無職という状態から抜け出して、
仕事をしている状態になりたかったので、
図書館での配架という仕事をするということに、
とても魅力を感じていました。
「仕事をしている」
という状態は、
どうしても欲しい社会的地位でした。
その図書館の仕事は、
公的な就労支援とは全く関係のないルートで見つけることができました。
具体的にどのような方法で見つけたのかは、
現時点では伏せておきたいと思います。
理由は、
具体的な方法を説明をすると、
誤解を招く恐れがあるからです。
この手記では、
具体的にどのような方法で仕事を見つけたかという方法よりも、
東京しごとセンターやサポートステーションやヤングハローワークなど
いわゆる就労支援機関を経由しなくても、
仕事にはたどり着ける、
という体験を、
皆さんに伝えたいと思っています。
就労支援機関を渡り歩き、
その過程で不適切な対応を受け、
不快な思いをして、
その状況を当の機関や世の中に伝える方法を探したり、
ネガティヴな気持ちを回復させるために
時間をたくさん使ってしまう...
そんな想いをしなくても、
仕事にはたどり着ける...
当たり前のように思われるもしれませんが、
個人的にはとても重要なことだと思っています。
もし、
ひきこもっていて仕事に就きたいという人がいたら、
僕が図書館の仕事を見つけたようなルートがあれば、
仕事に就くためのハードルがかなり下がるのではないかと思います。
図書館スタッフによる面接
図書館の仕事では、
一応、
面接を受ける必要がありました。
面接官は2人の女性の方々で、
年長の女性の方が、
「週に1、2回で、1回3時間くらいの仕事だけど、それでも良いの?」
と僕に何度も聞きました。
当時の僕は28歳で、
普通に考えたら、
きっともっと長時間の、
やりがいのある仕事が他にいくらでもあるだろう、
と面接官たちは考えたのかもしれません。
実際には、そうだったと思います。
視力矯正の不具合を抱えていたとはいえ、
履歴書に3年間の空白があり、
職務経験がなかったとはいえ、
多分、
できたことは他にたくさんあったと思います。
その可能性を活かすため、
然るべき仕事や活動に就けるように導いたり支えたりするのが、
就労支援機関の役割だと思っていました。
でも実際にはそのような期待と現実は違っていました。
「週に1、2回で、1回3時間くらいの仕事だけど、それでも良いの?」
という質問に対して、
僕は、
「良いです」
という風に答えていました。
僕はそのくらいの短い時間の簡単な仕事でも、
喉から手が出るほど欲しい気持ちでいました。
また、
当時の僕は接客というものに苦手意識があったので、
図書館でのカウンター業務はやりたくありませんでした。
そのため、
仕事内容が配架だけ、
というのにも魅力を感じていました。
面接が終了し、
僕は図書館の仕事に採用されることになりました。
図書館のスタッフの方々は本当に良い人たちばかりで、
視力矯正の不具合を抱えていることで物覚えの悪い僕に、
何度も丁寧に仕事を教えて下さいました。
責任者のUさんも、
「最初は短い時間で配架中心に仕事をして、
慣れてきたら時間を増やしてカウンター業務などもやっていく感じなんですよね」
と、
こちらが希望すれば仕事時間を増やしてくれて、
他の業務も任せて頂けるような感じでした。
就労支援機関では否定的に扱われることが多く、
求人に応募しても応答がない状況だったのに、
実際に働いてみると、
周りは良い人たちばかりで、
やる気さえあれば仕事も任せてもらえる環境があることに、
不思議な感じを抱いていました。
また、
ここには無理のない形で、
キャリアを形成していける道が用意されていることが、
とても魅力的でした。
ひきこもりなどの困難を抱えている人たちは、
公的な相談窓口や就労支援機関を通過せず、
直接仕事が得られる方法も考えた方が良いかもしれません。
そして、
当時の僕も、
そうするべきだったかもしれません。
職場の図書館はとても広かったこともあり、
本を棚に戻す作業は大変でしたが、
本が大好きな僕にとっては、
たくさんの本に囲まれて、
たくさんの本に触れられて、
たくさんの本の背表紙を眺めていられるのは、
とても幸せな時間でした。
普段、
自分では接することのない絵本やライトノベル、小説、理系の本などに触れられることも新鮮で、勉強になりました。
配架の仕事は楽しいものでしたが、
同時に、
視力矯正の不具合が深刻で、
仕事をこなすのが大変になってきました。
コンタクトレンズを付けていることから来る目の痛みに耐えながら、
本の背表紙に貼られた番号のシールを確認していましたが、
休憩時間にコンタクトレンズを何度も交換して、何とかしのいでいました。
ひきこもり問題に取り組む
ただ、
この先ずっと図書館の仕事を続けていくには限界も感じていました。
そのため、
2010年の3月、
わずか半年間で、
図書館の仕事を辞めることにしました。
半年間、
とても短い期間でしたが、
職務中、
色々な出来事がありました。
ご利用者様に、
探している絵本がなかなか見つからない、
とご相談された際、
一緒に探すのを手伝って絵本を見つけられた時は、
小さな感動であり、
小さな成功体験でした。
最後の勤務日、
サプライズで、
スタッフの皆さんから寄せ書きを頂きました。
短いようで半年の間にはスタッフの皆さんとの関係性が変化したり、
深まったり、
色々な瞬間がありましたが、
寄せ書きを頂けるとは思っていなかったので驚きました。
......
図書館で働き始めてから、
同時にサポートステーションMで不適切な対応を受けたことを訴えるための活動や、
ひきこもり関係の集まりに参加し始めていました。
図書館で働いていた日々は、
同時にひきこもりの問題に取り組み始めていた時期でもありました。
日本の中の東京の中の狭い地域での話ですが、
この図書館での世界の先にある生活と、
ひきこもりの問題に取り組むことになる先にある生活は、
だいぶ異なる世界だと感じていました。
そして、
前者の世界は明るく、
華やかで豊かなイメージで、
後者の世界は報われることがない、
暗く、寂しく、辛く、険しく、貧しく、
とても困難で、シンドイ世界だと感じていました。
……第7回へつづく